体は正直

昨日まで二階の寝室や自分の部屋に行く為、杖をつきながら一段一段階段の上り下りをしていたのに、今日は杖なしで大丈夫になった。

しかも朝も早よから5時には仕事していて、少しずつ元の体に戻りつつあるのがわかる。一緒に働いている仲間が重い物を持ってくれたり手をかしてくれたりと色々気遣ってくれているのがありがたい。病み上がりなので、徐々に体を馴らしていこう。

病気入院したこともあって、以前よりも自分の体の調子や具合に気をつけるようになったというより、自分の体を注視するようになった。健康な時は日常生活や仕事の場面で当たり前のようにこなしていたことが出来なかったり無理がきかなくなったのを実感する。そして少し無理をすると今回のように体が悲鳴をあげる結果になる。

体は正直だよ。そういえば入院期間中手術後五日間はさすがにタバコを吸いたいと思わなかった。もっとも高熱が続いたり痛みも酷かったので当然なんだけど。でも六日目あたりから食後の一服がしたいと思うようになり、そうなったら我慢するのがしんどくなり鞄の奥に持参してきたタバコをガウンのポケットに入れ、点滴のスタンドをコロコロ転がして喫煙出来そうな場所を探したよ。まだバルーンにオシッコを貯めるためのチューブが俺のムスコに入ったままで、腕には点滴用のチューブ、なにもそんな状態で外に出るなんてと思うだろ。

体は正直なんだよ。とにかくタバコが吸いたいのだ。それに俺の場合、人の百倍くらい欲望には弱いタイプで、なにが嫌いかって我慢するのが超嫌いなんだ。でも病院の敷地内は当然禁煙だし、入院時に看護士から「絶対禁煙ですから厳守して下さい」と念をおされたのを思い出し、正面玄関は避け救急用の出入り口から裏門に回って外に出たよ。ちょうどいい具合にコンビニがあって灰皿と御丁寧にベンチまである。

さっそく待望の一服をつけたね。約一週間ぶりのタバコ、美味かったね。立て続けに3本吸ったらクラクラしてきて「ヤベエ、2本で止めときゃよかった」と思ったけどもう遅い。しばらく落ち着くまでじっとベンチに座ってたよ。

その日以来出入り口の守衛さんに「ちょっと見送りに」とか言い訳して面会に来てくれた友達の車の中や、敷地外まで連れて行ってもらい一服していたら、その日の担当の看護士が「やのうさん、喫煙しに外へでてるでしょ。私は見なかった事にするけど、厳密には外出許可書がいるんですよ」と言うものだから、一応は「人違いじゃない、俺吸ってないよ」とまるで喫煙を咎められた未成年者のように答えたけどお見とうしだよな。そりゃオシッコが溜まっているバルーンと点滴ぶら下げてヨタヨタフラフラして歩いていれば怪しいもんな。「そうか、ならば外出許可書をもらえばいいんだ」

それで今度は面会に来てくれた友達に頼み、仕事の打ち合わせと称して外出許可書をもらったよ。行き先欄にガストと書いてね。そしたら婦長さんが「お酒は絶対いけませんよ」と言うので「はい、絶対飲みません」と答えたら「いってらっしゃい」と外出時間を一時間半にしてくれたよ。

体は正直だよ。ガストのメニューを見て、少なくとも病院の食事よりもましだとは思っても、食欲はわかなかった。

体は正直だよ。そろそろ退院も近いと思っていたら、その二日後にめでたく退院できたもんな。

本当に体は正直だ。untitled