復活

我が家の近くにある長久保公園は散歩するのにいい感じの公園で、園内の高台からは江ノ島も眺められ、ちょっとした穴場だ。

小さいながら温室もあり、公園内のホールでは植木や盆栽などの展示やら相談コーナーも設けられ、講習会なんかも定期的に催されてるようだ。なのでこの地域の植木好きや花愛好家達がもっぱら利用しているみたいで、俺もたまに覗いたりしている。

駐車場の脇では即売スペースが設けられており、いつ行っても「本日特売」ののぼりが立っている。でも俺がチェックしている限りでは、値段はいつもと変わらないけど。それでもそれなりに人出も多く、数軒の植木屋を周り値踏みなんかしながら庭木や根付きの植木、花鉢なんかを皆楽しそうに買い込んでいる。その中の一つで、植木屋のはんてんを着た強面の兄ちゃんが店番をしているところが俺の行きつけとなっている。全く商売気がなく、しかし質問なんかには丁寧に応え、その様子から察しても根っからの植物好きと見える。だから散歩の途中に立寄、植物や植木の話をするのがなんとも楽しいひと時だ。植物好き同士には、少し話をしただけで伝わってくるものがあるのだ。その兄ちゃんの言葉の端端から、愛情を持って植物に接しているのがわかる。これはとても大事なことで、ただ値札どうり商品としての植木を売る他店とは雲泥の差がある。

ある時その兄ちゃんが顔に似合わず「これ可愛いでしょ」と言ってパレットの中から食虫植物が植わったポットを出してきた。なんでも兄ちゃん自ら栽培したものらしく、あまり熱心に話すものだから俺もそのモウセンゴケの苗を二つわけてもらった。

夏の間は外のウッドデッキに出しっ放しでも、なんの問題もなく元気に成長しており、時折小さな蚊なんかも捕らえていたりして、その様子を面白がって見てたりしていたけど、冬場に入り油断していたらあっと言う間に枯らしてしまった。あの兄ちゃんの悲しそうな顔が目に浮かんだとたん、心が痛んだよ。それでその枯れてしまったモウセンゴケを、我が家の室内の特等席に移し、毎日気にかけていたところ、水苔の表面から新しい芽を発見したんだ。おもわず「ヤッタね」のガッツポーズが出たと同時に「ほっと」したよ。

植物って動物のように声を発しないから、いつも気にかけて注意深く見守ってやらないとSOSのサインを見逃してしまう。

とにかく良かったよ。これであの兄ちゃんにも顔向けが出来るってもんだ。今度行くときは、この写真を持って会いに行くとするか。モウセンゴケ