基本は掃除

この写真を見て「あっ、總持寺の百間回廊だ」とわかる人はよほどの寺好きか鶴見つうだな。

毎日若い修行僧達が約150メートルほどのこの廊下を雑巾がけするそうだ。この日は掃除が終わっていたらしく、ピカピカに光っている長い廊下を、修行僧達が「ドスドス」と音をたてて足早に行き交っていた。

俺は掃除の仕事をするようになってから、このピカピカに妙に反応するようになった。俺達は基本的には床掃除がメーンで、契約しているパチンコ屋から官庁、商業施設、テナントビル、マンションの共有部分、病院等々を定期的に掃除するわけだが、ガラスや厨房の換気扇、エアコンのフィルターや照明器具の掃除なんかも仕事の中に入る。

通常の床の場合は先ずポリッシャーと呼ばれる機械で洗剤洗いする。よく見かけるだろ、ハンドルの下に洗剤タンクが付いていて床との接地面が丸くそのパッドを高速で回して床の汚れを落とす機械だ。慣れたとは言え、朝から晩まで機械を回す現場の時などは、足腰がパンパンになるよ。

それで機械で洗った後にカッパキと呼ばれる道具で床に溜まった汚れた汚水をかき取り、その後一番モップと二番モップで拭き上げていき、最後に仕上げのワックスをかけて作業が終る。だいたいこんな流れで掃除をしていくわけだ。本来ならば、床を洗ってモップできれいに拭きあげた状態で完了なのだが、この作業を毎日するわけにもいかず、また床材保護の為にワックスをかける。だから次回の掃除に入るまで、人が歩いた汚れがワックスの上に積もっていくことになる。あの一見光ってみえる床は実は汚れの光沢でもあるのだ。ためしに洗剤なんかを床に垂らしてごらん、ポツポツとワックスと汚れが浮き上がって、かえって汚く見えるから。だから掃除の予算がたっぷりある現場は、別料金で剥離作業を行う。これがかなりの手間と労力がかかる作業なんだけど、剥離剤という特殊な洗剤を使って、積もり重なったワックスと汚れを、薬剤の力で浮き上がらすのだ。剥離終えた床は「こんな色をしていたのか」とびっくりしてしまう本来の床色になるよ。

このお寺の回廊は当然のことながら機械も使わなければワックスがけもしていない。ひたすら毎日人間の手で拭きあげているだけだ。

掃除は修行とよく言ったもので、真冬の凍る中、あるいは真夏の猛暑でも休むことなく作務と呼ばれる修行の結果があの輝きになるのだ。

これって、掃除に限った事じゃない気がするな。嘘っこの輝きはいずれメッキが剥がれるように輝きを失うだろうし、ほんまもんの輝きってどういう事って見つめ直すヒントを与えられた思いがしたよ。いいものを見させていただきました。桜 006

 

まるで関係ないけど、総持寺の境内にあったこの木、あまりの存在感に立ち止まって見とれてしまったよ。木