強気と弱気

Scan 11307000620年以上花屋稼業をやってきて、つくづく商売はむずかしいと思った。結論として自分にはむいてないと判断して店じまいしたわけだが、本来なら「もっと早く気がつけよ」なのである。しかしながら何事においても全て ど を超している性分であるが故、本来なら2・3年、まあせいぜい5年くらいで気づくべき事を20年以上かかってようやく「俺は商売には不向きだ」と判断したしだいだ。たとえばどう向いてないかといえば、先ずは俺の見てくれに起因する事が多い。けっして爽やかとはいえない風貌、次に愛想ならびに態度が悪い。さらにお金に頓着しない。そして飽きやすい、出来るなら遊んで暮らしたい。嫌な事はしたくない。とりたてて冷静にならなくても「こういう人は商売しちゃ絶対ダメ」の条件を全て満たしているのだから、もっと早くに気づくべきだった。商売に対する不都合な精神は、努力をもってすれば多少改善出来る余地はあるかもしれないけど、生まれ持った見てくれに関しては、いかんともしがたい。これを否定されてしまうと、お面でもつけて「いらっしゃいませ」と接客しなくてはならない。なるべく愛想よく自然に営業スマイルが出来れば問題ないところ、無理にするものだからよけいに不自然きわまりないへんてこりんな表情になる。さらに問題なのは、この見てくれとは逆に案外弱気な面を持ち合わせてる事だ。外見上「よく来たな、どんな花がいいんだ。はやく決めろ」ってな感じに見受けられるが、内心では「これで一万円ではぼったくりと思われないか?気にいられなかったらどうしよう」そして「表通りに可愛い花屋さんがあるので、そちらに行かれたらいかがですか」そう言ったほうがいいんじゃないかなどと思ってて、しかしあくまでも外見上はそんなふうに見えないから、間違いなくお客は「強気丸出しの花屋だ」と思っている。これは大変な誤解なのだ。雑誌などの仕事で、肝心なギャラの話になると「これだけ身を削って仕事するのだから百万円ください」と言いたいところ、相手が提示した金額に「ありがとうございます」なんて言葉が思わず口をつく。どだいお金の交渉なんて俺には無理な話なのだ。強気ばかりではいけないし、かといって弱気では相手の言いなりになりこれまたよくない。もうそんな事に心を悩ますくらいならなにもしないで家でビートルズでも聴いてるほうがいい、っとなってしまうのだ。一事が万事こんな調子だから、どう考えても商売には向いてないのだ。俺に向いてる仕事はなんだなどと、今更悩んでる場合ではないことだけは確かだな。われながら本当に困った奴だ。補足  この原稿は数年前に書いたものです。