そこまで言わんでも。
2000年になった頃のブログを読み返している。
11月8日(土曜日) 一年半ぶりに女友達と電話で話をした。その彼女に最後にこう言われたよ。
「ミッキーが真面目な男になることなんて、誰も望んでいないわよ。すくなくとも私はね。駄目でいいのよ。ただ、その駄目ぶりは あなたのオリジナルな駄目ぶりじゃなくてはいけないの。そこいらへんの男と同じじゃダメなの。一生懸命駄目ぶりを発揮すれば、必ず誰かが あなたの駄目をカバーしてくれるわ」
駄目な男のお墨付きだな。俺は謹んで聞いていたよ。これまで、感性だけで突っ走ってきた男が、普段使わない頭で勝負しようとしているから、いろんな迷いが生じるのであろう。
12月12日(金曜日) 朝 店に着いたとたん携帯電話が鳴った。
「はい、もしもし」
「あんた、相変わらず無愛想ね」豆腐屋をしている同級生だ。
「なんか用か?」
「用かじゃないでしょ!今日何日か知ってる?」
「なんだよ、12日だろ」
「そうよ、12日よ。アレした?」
「いきなりアレって なんだよ」
「アレよ。ったくしょうがないわね。去年教えてあげたでしょ!」
「アレ」とは、商売のおまじないの事だ。紙に漢数字で十二月十二日と縦書きに書く。なるべくなら墨がよい。書き終わったら上下逆さまにして東向きの壁に、その紙を貼るのだ。ただそれだけのことなんだけど、商売繁盛のおまじないらしい。たしかに以前彼女の豆腐屋に行ったおり、ちゃんとソレが貼ってあったのを見た。
「俺、すっかり忘れてたよ」
「駄目ねー。だから矢納君は駄目なのよ。商売は厳しいのよ。バカにしないで、ちゃんとやりなさいよ。いい?わかった!」
俺、彼女の勢いに押されて思わず「はい、わかりました」
「じゃ、元気で真面目にやりなさいよ。お豆腐食べたくなったら、いつでも来るのよ。真面目に飽きずに、いい?わかった?」
「はい、よくわかったよ」
この同級生の彼女は、数年前に胃ガンの末期症状であっけなく死んでしまった。
当時のブログには、この他にも沢山このような話が書き込まれている。
あれから20年近く経ち、俺も漸く少しは大人になった。齢68ともなればしごく当たり前のことではあるが。
あの頃は「アホ・ボケ・カス」の三点セットであちらこちらから責め続けられていて「なにも、そこまで言わんでも」と心の奥で思っていたものだが、今にして思えば、おりにふれて こうまで気持ちよく叱り飛ばされる場面は、すっかり無くなってしまった。
なんだか一抹の寂しさ感じるよ。