自分を上げる棚

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俺は靴が大好きだ。

どれくらい好きかといえば、気に入った靴は即欲しくなるので、靴のサイズや洋服とのコーディネートなんかは二の次三の次になる。

なので俺の靴のサイズは25cmから28cmと幅が広い。つまり靴に自分の足のサイズを合わすのだ。

とは言え、ブカブカ過ぎて足に豆が出来たり、小さ過ぎて10歩も歩けなかったりもするので、結局は履かずじまいのまま時折眺めてはニヤニヤ一人悦に入ってる時間が幸せなのだ。

でも、それだけではない。スニーカーを自分で洗って汚れを落とし、クリームや防水スプレーできちんと手入れもする。

生まれ変わったら靴屋もいいかも!などと、わりと真剣に思うこともある。

まあそれくらい靴が好きなのだ。

仕事で履く靴だっていつもきちんと洗い、洗剤でとれない汚れなどは消しゴムでこすったり、白い紐が汚れたら直ちに新しい紐と交換する。

今朝も洗い立てのきれいにした靴を履いて出勤した。

本日は午前の部と夜中の2ポイントである。午前の部は予定通り昼前に仕事を終え、道具類を車に仕舞い込み助士席に乗り込んだ。

「あれ、なんだこれ?」

車のフロワーマットに何やら茶色のものがこびりついている。

「えっ、ウンチ!うそだろ!」恐る恐る洗い立てのスニーカーのソールを覗き込んだ。

すると、あろうことかなんと5センチくらいの茶色の固まりが見えた。

「あははは、やのうさん、ウンがついてるな。今日はきっといい事があるよ」

「冗談じゃねえ!」

今朝は早朝出勤でまだ夜明け前だったものだから、暗くて足下もよく見えなかった。

臭いはしなかったので、犬のウンチでも踏んづけたか?でも、それにしても気がつくはずだしな。

ここで俺のよろしくない性格がやにわに顔を出した。

「昨日この座席に座ったの誰?」実は俺は昨日は休みであった。

「Kだけど」同僚が答えた。K君は最近入社した新人である。

普段から仕事中も注意散漫なKのことだ、あいつならそういう事も十分考えられる。

「あの野郎、ふざけやがって!依りにもよって洗い立ての俺のスニーカーを!許さん!」会社に到着し、皆が夜の部の仕事の段取りをしている間、俺はといえば一人ブツクサ言いながらフロワーマットとスニーカーを洗っていた。

「しかし待てよ、もしあいつの仕業ではなかったら、いくら新人とはいえとんだ濡れ衣を着せる事になるな」そう思い直し、あいつのロッカーに置いてあったKの靴底を見てみたら、ウンチのウの字も付着していなかったのだ。

「こりゃ悪い事をした。すまんK君、今夜顔を会わせたら現場では優しく丁寧に指導してあげよう。かんべんしてくれ」

世間には自ら「自分のことを棚に上げて言うのもなんだけど・・・」などと一発かましといて、言いたい放題、好き勝手なことを口にする最低な輩がいるが、どうやら俺の場合、自分を上げる棚の大きさは、その連中よりもはるかにデカイものであると思われる。

こりゃノコで半分くらいの大きさに切らねば、一生「このお調子者」と誹りをうける羽目になる。

これは好ましくない状況である。

この際、自分を上げる棚は完全に撤去して、もっともっと謙虚な人間にならねばいかんな。

よし、今日を限りに棚を取っ払ってしまおう・・・と思いました。

しかし、何時何処でウンチを踏んだのか?

今もって腑に落ちん。