重々承知

三年前の11月15日に俺も人並みにめでたくも無事還暦をむかえた。                                     そのおり心暖かい人達より色々なプレゼントをちょうだいし「なんと自分は恵まれた人生なんだ」と感涙し、この人達の期待に応えるべく、日々努力をし真面目にこれからの人生を生きていくんだ・・・・と心に誓ったかどうかはともかく、いただいたプレゼントのなかで強く印象に残ったものがある。  それは、自分が生まれたその日に発行された新聞である。もちろん当時の新聞をコピーしたもので、毎日新聞であった。               すごいもんだな。こんなサービスもあるんだな。昭和24年11月15日、火曜日。第一面には補正予算案提出とあり、総額360億の見出し。その他には物品税1月より軽減等々残念ながら記事の内容は字が細かすぎて判読は出来ない。興味深いのは社会面で「結婚白書の戦後版」のコラムで、「増えた再婚の妻」の見出し。終戦後まもないこの時代、戦争で夫を亡くした未亡人が多数いたようで(去年のクリスマスイブに亡くなった俺の母親もその中の一人)どうじに「貞女は二夫にまみえずといった旧道徳から解放されたため」とあった。時代だね。ラジオ放送の欄もある。そうだった、俺が生まれたこの年にはテレビなんていうものは存在してなかったんだよな。                                          朝7時45分の「朝の訪問」から始まって、夜の10時半の「ベニーグットマン楽団」まで、長唄やら落語やらの番組が書かれてある。さらに広告にいたってはすごいぞ。まずは映画の宣伝。「ジョニーベリンダ」の題名に続き「全女性に問う、彼女の肉体は汚れたと言えるのだろうか!」のキャッチコピー、その下にやや官能的な挿絵があって、東宝映画本日一斉特別大公開「夫婦系図」長谷川一夫 高峰秀子 山田五十鈴の名前がある。そして目をひいたのがデパートの広告だ。高島屋のものは特に興味深い。家庭必需品五種 特別提供 ときて、食器戸棚2.5尺X4尺 1950円   食卓3尺丸  890円  おはち1.5升  250円  こたつ中型 150円  せと火鉢 220円より記念大売り出し  とあった。           どれもこれもまぎれもなく俺がこの世に生をうけたその日の出来事 告知で、おやじもその家庭必需品5種を買うため懸命に働き、時には息抜きでおふくろと二人して夫婦系図を見に映画館まで足を運んだかもしれない。最初はおもしろがってこれらの記事を読んでいたけど、そんなふうに考えたら、なんだかたまらなくしんみりした気分になったよ。                                そうしてみると自分の生まれた日のこの新聞のコピーって、両親に産んでくれて ありがとう の感謝の気持ちを思い起こす最適のプレゼントかも知れない。親不孝の数では誰にもひけはとらない俺には、心からそのメッセージが伝わるものであったよ。                      肝心なのは常日頃からその気持ちを持ち続けていられるかどうか。重々承知しております はい。重々承知