ピーナツを知ってる?

別名落花生。とくに秦野の生落花生はバツグンだぞ。秋の一時期しか出回らないから、ここ何年かは苗を買ってきて我が家の庭で育てているんだ。
特に去年は豊作で「これは半分は冷凍にし小出しにしてビールのつまみにするべ」と収穫時を首を長くして待ちわびていたら、半分ほど鳥に食われてしまったよ。「この野郎! ふざけやがって、干し芋に続き落花生までもか」と四日間ぐらいは落ち込んだけどな・・・・って、そのピーナツの話じゃないんだ。

横浜の伊勢佐木町にある老舗のジャズ喫茶ピーナツの話だよ。団塊の世代、つまり俺達の世代よりも前から横浜といえばピーナツって時代があったんだよ。俺がこのステージに初めて立ったのが二十歳前後だったかな。もう大昔の話になるから、ほとんど記憶は飛んでしまったけど、一つだけ忘れられない出来事があるんだ。

その頃のピーナツは午前と午後、それから夜の部に分かれており、だいたいが午後の部に当時売れていたグループサウンズが出演していて、それは追っかけの十代の女の子で超満員、社会現象になったくらいの大騒ぎだったよ。俺達といえば売れない地元横浜の不良バンドだったから、もっぱら夜の部の演奏で、客はといえば地元クラブのホステスの姉ちゃん、不良外人、酔っぱらいってなところがほんどで、昼間の部の華やかなキャアキャアーさなんてこれっぽっちもなかったよ。
酔っぱらいのおっさんや不良外人相手にステージの上と下で喧嘩なんぞ毎晩で、かといって「俺達も昼間のステージに立てるよう頑張ろうぜ」ってな前向きな話なんてメンバー誰一人も口には出さず、もっぱら年上のネエーちゃんの酒のお相手、まあそれ以外のお相手にもせっせと精を出していたようなダメダメバンドだったんだよ。でも酔っぱらいでも不良外人でも一応は客には違いないわけで、まだ誰もいない客席に立って演奏する午前の部に比べたら恵まれてはいたんだけどな。

ところがな、その午前の部で演奏してるバンドでスゲー奴がいたんだよ。
誰一人いない客席に真剣に大汗かきツバを飛ばしまくりながらビートルズのマッチボックスやスローダウンなんかをガンガン歌ってるんだよ。俺達は当時家にも帰らずピーナツの従業員が寝泊まりしてる部屋に入り浸ってたから、午前の部の客席は寝場所がわりでもあったわけだ。それでそいつらのステージを子守唄がわりに二階席で聴いていたんだ。

俺のバンドのタイコがそいつにどびんってあだ名をつけていて、なぜどびんとつけたのか聞いたら「あの野郎、伊勢佐木の通りや日ノ出町の駅なんかで出くわすと、遠くからでもすっ飛んで駆けてきて、口をとんがらかせて 先輩おはようございます!おはようございます!ってうるさくてしょうがねえんだよ。どびんみていな野郎だよ」っていってたけど、そいつが売れる前の矢沢だったんだ。やっぱり頂点にたつ奴は気合いが違うよな。これがピーナツでの忘れられない一番の思い出だよ。

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ちなみにこの写真は俺が三十代の頃ピーナツで歌ってた頃のものです。まだピーナツってあるのか?